多くのハチやアリは、「女王」を頂点として多数の働きバチたちで構成されたピラミッド型の群れをつくる、「社会性昆虫」であることが広く知られています。
スズメバチもその例にもれず、巣の最奥には女王の住まう玉座があるとされています。
巣のなかにこもりきりで、めったに姿を見せないスズメバチの女王。
凶悪なスズメバチの頂点に立つ彼女たちは、どのように生き、どのように生を終えるのでしょうか。
本コラムでは、そんな知られざるスズメバチの女王に焦点をあてて、見た目の特徴からその一生涯まで、幅広く解説していきます。
スズメバチの生態についてはこちらのまとめをご覧ください。
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目次
春に姿を見せる、スズメバチの女王の身体特徴
春になると、スズメバチの女王が外界を飛び回るようになります。
女王バチは、働きバチと姿かたちがほとんど同じです。
パッと見ただけで女王バチであると判断することは難しいとされています。
◆スズメバチの女王の身体特徴
身体のサイズは女王バチのほうが働きバチよりも1周りも大きいです。
女王バチが外を飛んでいる時期に働き蜂がいることはありません。
春に身体がとても大きな蜂を見かけたら、女王バチである可能性が高いでしょう。
スズメバチの女王と働きバチの違いは、動画で確認するとよくわかります。
スズメバチといえば強力な毒をもった針が特徴的ですが、スズメバチの女王も毒針を持っているのでしょうか。
ハチの毒針は、卵を産む器官である「産卵管」が変形したものです。そのため産卵を行う女王バチもまた毒針をもっており、うかつに触れれば刺される可能性があります。
ただし、冬越えをしたあとの女王バチは非常に疲れている(=体内に残ったエネルギーが少ない)状態のため、よほど執拗に触り続けないかぎりは攻撃してくることはありません。春に現れる女王バチは巣作りに忙しい時期なので、戦いに費やせるようなヒマがないという理由もあります。
ちなみにオスのハチは当然産卵管をもたないため、そこから派生する毒針ももっていません。強力な毒針を持ち危険なことで知られるスズメバチの働きバチは、全員メスです。
◆働きバチの身体特徴
スズメバチの女王と働きバチは大きさが違うだけの同じメスバチであり、形状的な差異はほとんどありません。働きバチには子供を作る能力がないため、お腹の部分が若干ほっそりとしている程度です。
スズメバチの女王――春の目覚めと営巣編
スズメバチの外見的な特徴を確認したところで、次はスズメバチの女王が目覚めてから命を終えるまでの一生涯を順に追ってみましょう。
女王が巣を作るまでには、どんな紆余曲折があるのでしょうか。
木のウロや樹皮の隙間、あるいは民家の屋根裏などで寒さをしのぎ、冬を超えたスズメバチの女王は、自分の住処となる巣を作る場所を探すために外界を飛び回ります。
長い冬を乗り切った直後の女王は非常に消耗しているため、まずは失ったエネルギーを補給するために食事をとります。
このときエサとなるのは春に開いた花の蜜や樹液など、甘くてカロリーの高い液体です。
この体力回復期間は二週間程度続き、その間女王バチはスズメバチらしからぬ大人しさをみせます。当然一匹で行動することになるため戦闘はリスクが高く、ほかの虫に追い立てられてしまうことも多くあるようです。
ちなみにいわゆる「スズメバチトラップ」で捕まえることができるのは、春先に現れる女王バチです。トラップは濃厚な蜜の香りでハチを誘うため、とにかく食事をとりたい女王バチが誘因されて引っ掛かります。
体力が十分に回復したあとは、巣を作る場所を探して飛び回ることとなります。このとき女王バチは一日に50kmもの距離を移動するといわれ、途中何度も補給を繰り返しながら想像を絶する長旅をします。
巣作りの場所は数日かけてじっくりと吟味し、周囲の地形を覚え込み、エサ場の位置や危険がないかどうかなどを調査します。一生をそこで過ごす巣の設置場所なので、女王も必死です。
営巣する場所が決まったら、巣の材料を探して再び旅に出ます。
巣材となるのは朽ちた木や剥がれた樹皮などです。
ニッパーのような巨大なアゴをつかって木の繊維をはぎ取り、ノリのような成分を含んだ唾液と混ぜてもみほぐして巣材に仕上げます。
仕上がった巣材を営巣場所に持ち帰っては積み上げ、また同じ場所で巣材を調達といった感じで、
営巣場所と巣材調達場所との往復生活が始まります。
巣は外敵からの防衛と防水、保温などさまざまな機能をもたせる必要があり、女王はこれをたった一匹で築き上げなければなりません。
巣は土台となる支柱、水や外敵の侵入を防ぐ外皮、そして子供を産み育てる「育房」などに分かれています。育房が何室か完成すると、巣作りと並行して卵を産み、子育てを行うようになります。
最初の働きバチが孵化したそのときこそ、冬眠から目覚めた一匹のメスバチが、一国の「女王」となる瞬間です。
スズメバチの女王――働きバチの誕生
働きバチが誕生してからも、女王の多忙な生活は終わりません。幼虫のエサとなるのはほかの虫の肉団子なので、スズメバチの女王は巣作りしながらさらに外に狩りに出て肉をとってこなければなりません。
春の中ごろに生まれた最初の働きバチの幼虫は、夏の初めに羽化して一人前の働きバチとなります。ここまで来れば働き手が増えるため、女手ひとつですべてを担ってきた女王バチも少しは楽ができるようになります。
働きバチが次々に羽化し、巣の規模が大きくなるまでは、女王もまだまだ第一線で働いています。働きバチたちと共に狩りをし、幼虫を育て、群れを大きくするために東奔西走を続けます。
9月ごろには群れの規模がピークに達し、その少し前あたりから女王は現役を退いて巣のなかにこもるようになり、「老後」を後進の育成に費やすようになります。
スズメバチの女王――新女王バチの誕生とオスバチ
後進の育成。それはつまり、次世代の女王を産み育てるということです。
巣にこもるようになった女王バチは、産んだ働きバチの中から「次期女王候補」の選定を行います。
◆新女王バチの誕生
次期女王候補は、ほかの一般働きバチと同じ卵から産まれてきます。生まれてからはまったくの別待遇で、特別なエサを食べて交尾と営巣が可能なよう大きくたくましく育てられます。巣のなかで誰が女王になれるかは、生まれの素質ではなく育った環境で決定されるのです。
女王候補は羽化したあとも働きバチのように外に出て狩りを行うことはなく、箱入り娘のように蝶よ花よと大事に育てられます。これには余計な労働で冬越えに必要な脂肪を燃焼させないようにする意味合いがあります。
次期女王の育成が行われる一方で、同じ王室ではオスバチの育成も行われます。オスバチもまた働きバチとは違って働くことはなく、巣の中から出ることなく育ちます。
◆オスバチの役割
スズメバチの群れは完全分業制の社会であり、オスとメスとは明確に役割が異なります。オスバチの役割は労働や戦闘ではなく、同じ巣で育った女王候補や、ほかの巣で育てられた女王と交尾を行い、子孫を残すことだけです。
◆オスバチの身体的特徴
オスバチには産卵管から派生する針はなく、したがって毒ももっていません。戦闘能力もほとんどなく、オスバチのほとんどは外に出たあと捕食されて生涯を終えます。見た目にはあまり違いがわかりませんが、メスの働きバチと比べると若干サイズが小さいことも特徴です。
◆旅立ちと交配
秋が終わるころ、一人前へと成長した若き女王候補は、ついに王室を出て外界へと飛び立ちます。同様にオスバチたちも女王の後を追って一斉に巣を飛び出します。新生女王とオスバチたちの一斉飛行は「群飛」と呼ばれ、そこかしこで同じようにハチの群れが飛び交うこととなります。
巣を出た女王バチはほかの巣から出てきたオスバチと出会うと、交配を行います。オスバチたちもまたほかの巣の女王候補と交配するために飛び回りますが、女王に比べてオスバチは数が多いため、ほとんどのオスはそのまま力尽きて一生を終えます。
幸運にも女王との交配に成功したオスも、冬が来る前に寿命を迎え、オスはこの時点で例外なく全滅します。巣に残った働きバチたちも冬には全滅するため、生き残るのは女王だけとなります。
女王バチの世代交代――新女王バチの越冬
新たな女王を送り出した、「旧女王」もまた、働きバチたちと運命をともにするように生涯を閉じます。スズメバチは最も長生きする女王であっても寿命は一年と限定されていて、一つの巣が冬を超えて存続することはありません。
交尾を終えた若い女王バチは、長くきびしい冬を超えるために、寒さをしのげる朽木の中や樹皮の間に入り、春が来るまで動かずにいることで越冬します。
そうして、また春になれば外界へと飛び立ち、自分の巣を作るために奔走することになるのです。以上が、スズメバチの女王の一生、一年のサイクルとなります。
世界最大のスズメバチ。生態系に与える影響と存在意義
空を飛ぶ虫としては世界最大級のサイズをもち、また危険度も最高クラスの害虫として知られるスズメバチ。人間にとってはおそるべき相手ですが、生態系においては非常に重要な役割を担っています。
◆生態系の番人、スズメバチ
スズメバチはその高い戦闘能力と旺盛な食欲で、さまざまな虫を捕食します。これは、スズメバチが獲物を狩ることで、ほかの虫が爆発的に繁殖することを防ぐということでもあります。
生態系というのは非常にあやういバランスのうえに成り立っていて、食べる者と食べられる者は一定の割合で存在している必要があります。わかりやすい例を挙げると、日本には昔ニホンオオカミというオオカミがいましたが、近代になって絶滅してしまいました。
すると、ニホンオオカミに狩られていたシカやイノシシが大繁殖して、森の木や草を食べつくしてしまい、結果的に環境が大きく壊れてしまったという事例があります。
同じように、スズメバチが定期的に狩りを行って、木や葉を食べる虫の数を一定に抑える……これを専門用語では「捕食圧による個体数調整」といいますが、こうすることで生態系のバランスがうまくとられているわけです。
また、スズメバチは日本に本来いなかったはずの外来種が野生化して増えるのを抑制する役割ももっています。たとえばセイヨウミツバチは、ハチミツをとるためにヨーロッパから輸入されてきた外来種です。
非常に繁殖力の強いセイヨウミツバチを放し飼いにしていて、なぜ野生化が起こらないのかといえば、日本に元からいたスズメバチが天敵としてたちはだかり、野生化を防いでいるからとされています。
外来種の繁殖はその土地の生態系を大きく変えてしまう要因となるため、スズメバチが生態系を維持してくれているといってもいいでしょう。これもまた、スズメバチの存在意義です。
◆食べると意外とおいしいスズメバチ
スズメバチは食用になります。有名なのが長野県や岐阜県で広く食べられている「へぼ」であり、これはスズメバチの幼虫のことです。低カロリー、高たんぱくで必須アミノ酸も豊富に含まれており、なによりおいしいそうです。
またスズメバチの女王や成虫は、焼酎に漬けると栄養の染み出した薬酒になります。疲労回復、滋養強壮に効果があるとされ、健康維持のために愛飲している人も多いといわれています。
ハチの次期女王を育てるために与えられる特別なエサは「ローヤルゼリー」と呼ばれ、これも滋養強壮に効果のあるものとして非常に有名です。
このように、スズメバチは危険な害虫というだけでなく、益虫としての側面もしっかりと持っています。命にかかわる猛毒をもった生き物ですが、うまく付き合うことができれば、さまざまな恩恵をもたらしてくれます。
まとめ
本コラムでは、害虫として名高いスズメバチを、個性豊かなひとつの生き物として解説いたしました。スズメバチの女王がたどる、波乱に満ちた一生。いかがでしたでしょうか。
見た目からしておそろしく、見た目に違わない凶悪な攻撃力をもったスズメバチですが、こうして一生を切り取ってみると、また違った見え方ができてしまいます。スズメバチにはまだまだ面白いエピソードがたくさんありますので、興味をもっていただければ幸いです。
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